トホカミエミタメとは

トホカミエミタメとは、

上古において鹿の肩甲骨か亀の甲羅に印をつけて焼き、そのひび割れの結果で神意を占う、太占(ふとまに)を行う際に、

鹿骨又は亀甲に卜兆(ぼくちょう・うらかた)として「マチガタ」(兆体、亀兆)が印づけられたが、

その要点である5か所に「ト」「ホ」「カミ」「エミ」「タメ」に分けてつけられた符牒(ふちょう)であった。

※符牒とは同業者内、仲間内でのみ通用する言葉。隠語。 

その「ト」「ホ」「カミ」「エミ」「タメ」の字をつける位置は、卜術(ぼくじゅつ)の諸流派によって異なっていたが、ほどなく統一されていった。

様々な漢字があてられるが、「吐普(苔)加美依身多女」が一般的である。

現代でも太古から伝承される太占の神事を行っている神社は、『武蔵御嶽神社』(東京都)と『貫前神社』(群馬県)2社。

武蔵御嶽神社の公式サイトで知る所によれば、「太占祭」は一般には公開されていないが、

毎年1月3日の早朝に鹿の肩甲骨を齋火であぶり、出来た割れ目でその年の25種類の農作物の出来・不出来を占うという。

★五行思想が背景のト・ホ・カミ・エミ・タメ説★

「と=水」 「ほ=火」 「かみ=東、震雷、木」 「えみ=西、兌金、喜ぶ、笑み」 「ため=民、人、土」

「ト=灌・水」「ホ=放・火」「カミ=神・木・立」「エミ=人・金・水器」 「タメ=多如・土・亀甲」と、

五行の思想が背景にあった説もあります。

★卜部(うらべ)家や白川家で形成された説★

太占(ふとまに)という鹿の骨を焼いて占う卜術(ぼくじゅつ)は、

神祇官の卜部(うらべ)や、壱岐、対馬、伊豆の卜部が古くから用いたものであった。

トホカミエミタメは久しく使ううちに特定の意味が生じたと思われ、

中世末期には卜部家や白川家で「三種大祓」「三種祝詞」が形成された。

★吉田神道が形成した説★

卜占(ぼくせん)の家柄であった吉田家が、唯一神道の興隆に

「中臣祓(なかとみのはらえ)」や「三社託宣」などと共に、この「トホカミエミタメ」の神呪を信仰的に宣揚した。

そして陰陽五行説・易の八卦「坎」「艮」「震」「巽」「離」「坤」「兌」「乾」の語に結び付け

「寒言神尊利根陀見」の8言を発案し、祓い清めの用語を添えて「三種大祓」を形成し、

神言神呪として普及させたと推測される。

◇三種の大祓(みくさのおおはらえ)◇

とおかみえみため               

吐普(菩)加美依身多女

かんごんしんそんりこんだけん

寒言神尊利根陀見 

はらいたまいきよめでたまう

波羅伊玉意喜余目出玉


★天孫降臨の際に天太玉命が作った説★

宝永元年(1704)写本の『三種大祓神言』には、天孫降臨の際に太玉命が三種大祓の語句を作り、

それを種子命が和字に書し、大連(おおむらじ)公に至って漢字に書き改められたとされている。

大連公とは、卜部(うらべ)氏の遠祖とする常盤大連(ときわのおおむらじ)を指しているのかもしれない。

★三種の神器関連説 八卦由来説否定★

また『三種大祓神言』では、この神呪を「三種の神器」と関連させ、

「吐普(菩)」=勇、「加身」=智、「依身多女」=仁とする一方で、

「かんごん・・・」の8言が八卦に由来することを否定している。

八卦に由来した八言については、江戸時代中頃、京都で庶民層を対象にした神道講釈をしていた

増穂残口(ますほざんこう)による意見などを取り入れ、用いなくなったと言われている。

近世においては「三種大祓」が「三社託宣」と共に僧俗で深く信仰された。

★三種の大祓こそ天津祝詞太祝詞説★

また、この「三種大祓」こそが大祓詞(中臣祓)にある天津祝詞太祝詞(あまつのりとふとのりと)であると尊重し

「禊祓」の根本的な神呪とされた例もある。

【トホカミエミタメ信仰が窺える書物】

平安時代後期の有職故実書『江家次第(ごうけしだい)』巻18「軒廊ノ御卜」の条にはトホカミエミタメに関する記述がみられる。

宝永・正徳年間(1704~1716) 吉田定俊の『三種大祓俗解』

明和6年(1769)板 源本秀の『三種大祓簒説』(改称して『三種大祓大意抄』

明治8年(1875)刊行 大田喜春成(おおたき はるなり)の『吐菩加美考』

現代 書店入手可能『神社のいろは要語集 祭祀編』監修:神社本庁 企画:公益財団法人 日本文化興隆財団

特に文化・文政年間(1804~1829)ごろ、この「トホカミエミタメ」の言葉を中心に通俗平易な信仰を広めた

井上正鉄(いのうえ まさかね)は、多くの門人を得て、その門人たちは明治5年(1872)に「吐菩加美講」を結成。

翌年には「禊教」と称して、のちに神道十三派の一つとなった。

現代でも「神道禊教」として公式サイトがある。

★遠い神よ笑み給え説★

トホカミエミタメとは、「トホカミ」で区切って、遠い神、遠い昔の祖神の意味とし、

「エミタメ」は「エ」と「ヱ」を混同して「笑み賜え」(ヱミタマヘ)、

また「恵(めぐ)みたまえ」の意味と解する者もいる。

★八王子説★

ホツマツタエだと、とほかみえ「ひ」ため、と言われています。

クニトコタチ(国之常立神)の8柱の王子たちの名が、1文字づつ、

ト・ホ・カ・ミ・エ・ヒ・タ・メで、彼らが八方に散らばり、国狭土(くにさつち)=世継の神となったという説。

この八柱の皇子神が「八王子」の地名の由来だとか。

【まとめ】

元々占いに使う亀甲や鹿の肩甲骨に印としていた語で、

神秘性や信仰を持った簡潔な「神拝詞」「修祓の唱え詞」「神恩を蒙る辞句」

秘儀であるがゆえ、トホカミエミタメの言葉の意味については諸説ある。